栄ふく特集

山口県ではふぐを「ふく」と呼ぶ文化がある。
縁起物の良い「福」にかけた、粋な呼称だ。

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櫛ヶ浜漁港から少し入り組んだ住宅地。
細い路地裏を進むと、栄ふくの暖簾がちらちらと見える。暖簾をくぐるとその先にあるのは、民家の扉。まるで親戚の家へ来たような錯覚を覚えた。

ふぐ卸の老舗「青木フグ商店」直営の「栄ふく」。
ふぐの卸業者だった先代が、自宅を改装し、そこから栄ふくは始まった。

はじめは1部屋で1日1組限定。
それから年ごとに2部屋、3部屋と客の声に応えるように増え、今では10部屋の完全個室。
初代の部屋も30年の歴史を刻み、今も客を迎える。

生簀からすくい上げたばかりのふぐは、丸々とし、ぴちぴちと跳ねた。
歴史を感じる作業場兼調理場は整然としており、風情と共に清潔感がある。ふぐは慣れた手つきで運ばれ、ものの1分で手早く捌かれた。簡単にやっているように見えるが、このスピードで捌くには相当な経験が必要らしい。
栄ふく社長の青木さんは「今は物凄くゆっくりやっている」と笑う。

ふぐ刺し用のふぐは、布に包んで1日寝かせる。熟成したふぐは、ぐっと身が引き締まる。
「一つひとつ、身の引き締まり方が違う。捌いた時にわかるよ。」と、青木さんは言う。

おろす時の勢いとは一転し、洗練された技術でお造りに姿を変えた。
ふぐ刺しにしては厚い。それが栄ふくの特徴だ。花が咲くように1枚1枚繊細に盛り付けていく。

「これぐらい分厚い方が、ふぐの味がわかるんだよね。」
ふぐ刺しは数枚すくって食べることが醍醐味だとされているが、栄ふくのふぐ刺しはその厚さから1枚でふぐの旨みが感じられる。これが先代から受け継がれる栄ふくのこだわりだ。

大皿に盛り付けられたふぐ刺しは透き通り、美しい。
ふぐ刺しは添えてある寸ネギを巻いて、小ネギや紅葉おろしといった薬味と合わせたポン酢をつけていただく。薬味がふぐの繊細な味わいを引き立て、旨みが染みていく。そしてその厚さから、噛むほどに深みが増していく。

大皿の真ん中には、ふぐの皮と湯引きが盛り付けられている。
コリコリした食感とぷりぷりとしたゼラチン質が絶妙で、クセになる美味しさだ。

ふぐ刺しやふぐの皮、湯引きでそれぞれ食感も味わいも異なる。
この一皿でふぐを最大限に楽しむことができる。

この一皿を求めて遠方から多くの人が訪ねてくる。世界的に有名なアーティストもお忍びで通う、隠れ家。
栄ふくの伝統の味はこれからも引き継がれ、多くの人に愛されていくだろう。

 

「あなたのおもしろいを教えてください」

「何事も前向きにとらえること」

栄ふく 青木幸喜

栄ふく
山口県周南市櫛ヶ浜東浦242-30
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